大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)20号 判決

本件登録実用新案の登録請求の範囲は「蛍光灯(1)を支持するソケツト(2)(2′)を取りつけた細長い筐体(3)から天井又は壁等に固定する座板(4)(4′)を一体に出し、該筐体の一端にプールスイツチ型の三段式点滅器(6)を、他端に豆電球(8)をそれぞれ取りつけ、上記点滅器(6)から牽引紐(7)を垂下せしめた点滅器付蛍光灯照明器具の構造」とせられていることが認められ、右登録実用新案の考案要旨は、これを分析すれば

(a) 蛍光灯(1)を支持する支持ソケツト(2)(2′)を取りつけた細長い筐体(3)の構造

(b) 筐体から天井又は壁等に固定する座板(4)(4′)を一体に出した構造

(c) 筐体の一端にプールスイツチ型の三段式点滅器(6)を取りつけた構造

(d) 筐体の他端に豆電球(8)を取りつけた構造

(e) 点滅器(6)から牽引紐(7)を垂下せしめた構造

より成るものであることが認められる。

また本件権利範囲確認の対象である(イ)号のものの構造は、その説明書及び図面によれば、点滅器付蛍光灯において「樋状シエード(3)の両端に小筐体をそれぞれ取りつけ、両小筐体に蛍光灯(1)を支持する支持ソケツト(2)(2′)を取りつけ、シエードの両端に近く吊垂用チエーン(7)(7′)の各一端を連結し、右小筐体の一方にプールスイツチ型の三段式点滅器(4)と豆電球(5)を取りつけ、点滅器から牽引紐(6)を垂下せしめたもの」であることが認められ、これ((乙))を本件登録実用新案のもの(甲)との対比において、その各対応する部分に分析すれば

(a′) 樋状シエード(3)の両端に小筐体をそれぞれ取りつけ、両小筐体に蛍光灯(1)を支持する支持ソケツト(2)(2′)を取りつけた構造

(b′) シエード(3)の両端に近く吊垂用チエーン(7)(7′)の各一端を連結した構造

(c′) 小筐体の一方にプールスイツチ型の三段式点滅器(4)を取りつけた構造

(d′) 右同一の小筐体に豆電球(5)を取りつけた構造

(e´) 点滅器(4)から牽引紐(6)を垂下せしめた構造

より成るものであることが認められる。

そこで右両者の構造を比較し、(乙)が(甲)の権利範囲に属するか否かを考えてみるのに、(c)と(c´)、(e)と(e´)の点では両者は全くその構造を一にすることは明らかであつて、問題はその余の(a)(b)(d)と(a´)(b´)(d´)の点にある。そして右(a)(b)(d)と(a´)(b´)(d´)とが、その構造自体に相当の相違のあることは、右に見たところよりして既に明らかであるが、実用新案の権利範囲はそれと同一のものだけではなく類似のものにも及ぶものと解すべきであるから、右相違点の類否について検討する。

(一) まず(b)と(b´)の点であるが、(甲)のものは螢光灯を天井又は壁等に固定するため、筐体から座板を一体に出した構造(b)を有するに対し、(乙)のものは吊垂式のもので、螢光灯を天井から吊り下げるための構造(b´)を有するものであつて、両者間その構造上に相当の差異のあることは明らかである。しかし、螢光灯をチエーンで吊下することは普通に行われている慣用手段であり、また照明器具を天井、壁等に固定することも古くから行われているところである。従つて(b)のような座板固定式のものを(b´)のようなチエーン吊垂式のものに変更することは、当業者でなくても必要に応じ随時容易に行い得べき程度のものと認めるの外はなく、前記の差異はいわゆる構造上の微差というのが相当であり、両者類似の域を出ないものというべきである。

(二) また(d)と(d´)の点も豆電球を点滅器と同じ側に取りつけるか、反対側におくかの差だけであつて、この種照明用具でそのいずれの方式を採用するかという程度のことは、必要により容易に推考できることであつて、右の差異また構造上の微差であり、類似の域を出ないものといわなければならない。

(三) そこで問題は(a)と(a´)の点である。この両者の構造は前に記載の通りであるが、弁論の全趣旨からすれば、(甲)のものの筐体(3)中には塞流線輪等が納められており、(乙)のものではこの塞流線輪等は樋状シエード(3)の両端に取りつけられた小筐体中に納められ、樋状シエード(3)にはただその上部(内面中央部)に電源からの導線が中央から左右に引かれているだけであることが認められる。

原告は、(乙)のものにおける右シエードの部分はシエードとしての機能も持つが、またその上部は右のように導線を納めていて、筐体としての機能も持つものであるから、その構造上全体として見るときはこれを筐体と指称してよいばかりでなく、少くとも両端に取りつけられた小筐体を含めた全体を筐体というべきであると主張する。しかし右シエードの部分は、たとえ導線を納めているとはいえ、その構造は前記の通りの樋状のものであつて、この中に塞流線輪等を納めるものでもなく、到底これを筐体と認めることはできないものといわなければならない。そしてシエードと小筐体とを含めた全体としてこれを見るとき、なるほどその機能の上では、シエードが両小筐体を連結して、全体としては(甲)のものの細長い筐体と同様の働きをしており、(乙)のものはこれに反射笠としての機能が加わつているものともいえようが、その構造自体から見れば、(乙)のものは(甲)のものの細長い筐体の役割をする両小筐体を、その中間で反射笠の役割をするシエードによつて連結したものであり、その構造に著しい差異があるものと認めざるを得ないところであつて、この構造上の差は常用手段の変換ともいい得ないところであり、これを全体として見るとしても、(乙)のものの小筐体をシエードで連結した構造が(甲)のものの細長い筐体と同一ないし類似のものとは到底これを認めることはできない。

そして右(a)の構造が(甲)の考案構成上の必須の要件であることは、前に認定したところから明らかであるから、(乙)のものが右の構造を欠いている限り、(乙)は(甲)の権利範囲に属さないことは明らかであつて,結局これと同趣旨の本件審決には何等の違法もないものといわなければならない。

原告は(乙)における(a´)の構造を「細長い筐体(3)に蛍光灯(1)を支持する支持ソケツト(2)(2´)を取りつけた構造」(a´´))と把握すべきであると主張するが、その採用できないことは右に説明したところから明らかであり、また原告は、本件審決は旧実用新案法における考案の意義を誤解するものとも主張するが、実用新案権は物品に関する形状、構造又は組合せに係る実用ある新規な工業的考案に対して与えられるものであり、その考案というのも、結局型に具現せられた考案であり、その考案の権利範囲も、考案を具現した型そのもの及びこれと類似の範囲のものに及ぶにすぎないものと解すべきであつて、本件の(乙)のものは(甲)と類似の範囲のものとはこれを認め難いこと前に記載の通りであるから、本件における前記の結論は、原告の右主張によつてはこれを左右することはできない。

以上の通りであるから、本件審決の取消を求める原告の本訴請求はこれを棄却するの外はない。

〔編註〕 本件に関する(イ)号図面は左のとおりである。

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!